あなたが人事労務担当なら、こんな時どうしますか?
会社は労働者の安全と健康を守る義務を負っています。
労働者がうつ病などの精神疾患と診断された際には、まず病状を悪化させないように措置を取る義務があります。
まず本人へのヒアリングと専門家の診断を得ましょう
労働者本人から話を聞き取り状況把握します。
プライバシーに配慮しながら周囲の人たちからも聞き取りをおこないます。
専門家の客観的判断を得ることは大切です。
その時点で未受診の場合は医師に診てもらうよう勧めます。
それをもとに休職するか働きながら治療するかを決定します。
私傷病or労災どちらなのか?
状況把握を進めていく中で「私傷病なのか労災案件なのか」という疑問が出てきます。
明らかに私生活のストレスによるものであれば就業規則にのっとり手続きを進めましょう。
休職させる場合は傷病手当金の支給申請をすればよいでしょう。
本人からの聞き取りや医師の意見から、仕事による強いストレスが疑われる場合は労災申請をすべきです。
仕事によるストレスが原因であったからといって、すぐに会社が責任に問われるわけではありません。
ただし、労災申請は、提出すれば必ず通るというものではありません。
会社側に重大な過失がある場合は、民事の損害賠償請求をされる可能性も出てきます。
慎重に調査しましょう。
精神障害の労災認定には要件があり、細かな認定基準(後出)が設けられています。
労災認定された場合は労働者災害補償法にそって手続きを進めます。
精神疾患の労災認定データ
令和2年度の統計では、精神障害の労災補償状況は下図のとおりです。
請求件数2,051件、支給決定件数は608件、認定率31.9%
請求の3件に1件の割合で労災であると認定されています。
(出典 「精神障害の労災認定」厚生労働省)
労災認定基準
前項の労災申請は「労災認定基準」により裁定されます。
精神障害の労災認定には、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負担が認められること
- 業務以外の心理的負担や個体側要因により発病したとは認められないこと
精神障害による労災申請が行われた場合には、労働基準監督署は、労災認定要件・認定基準・業務による心理的負荷評価表によって調査・裁定します。
解雇制限
労災認定を受けている労働者は、労働基準法第19条により休業している期間とその後30日間は解雇できません。
しかし、下記の例外があります。
- 会社が打ち切り補償(平均賃金の1,200日分)を支払った場合
- 療養開始後3年を経過した時点で傷病補償年金を受け取っている場合
- 天災等の止むを得ない理由で事業継続が不可能となった場合
有期労働契約の契約終了は当初から決められていたもので解雇にはあたりません。
よって、解雇制限を受けません。
休職する場合
休職する場合は、就業規則の規定にそって手続きを進めましょう。
休職する本人への説明は口頭ではなく、書面をおすすめします。
<説明すべき項目>
- 休職事由
- 休職期間
- 休職中の社会保険料の負担
- 復職の際の手続きまたは復職できない場合の手続き
- 休職中の連絡方法
- 労災申請または傷病手当金申請の手続き方法 等
休職期間中は本人の負担にならない程度で、会社へ休職中の報告をしてもらいましょう。
1ヵ月に1回程度でしょうか。
休職期間満了
復職についての判断は会社が行うべきです。
しかし、それは主治医や会社の産業医の判断を仰いだうえで行う必要があります。
気をつけたいのは“日常生活を普通に送ることができる”は復職OKではありません。
“業務を遂行できるまでに回復した”の判定が出て初めて復職OKです。
会社に余裕があるならば、時短勤務・軽作業など労務負荷を軽減した復帰もできます。
ただし、復帰可否判断は慎重に行いましょう。
これからについて
これから会社に求められることをまとめます。
- 長時間労働対策を徹底する。
- 業務の内容において過剰な負荷がかかっていないかを確認する。
- パワーハラスメント防止に向けて、研修や相談窓口の周知をする。
これらの取り組みを進めていく必要があります。
※パワーハラスメント防止措置は大企業では令和2年6月1日より義務付けられています。
中小企業でも令和4年4月1日より義務付けられます(それまでは努力義務)。
これにより労災認定基準も負荷評価表にパワーハラスメントが追加されています。