長時間労働とは

昨今の日本で社会問題にもなっている「長時間労働」。過重労働が引き金となった大きな事件が多発し、社会全体に衝撃を与えています。

では、長時間労働とは、何時間以上の時間外労働を指すのでしょうか?

「〇時間以上勤務した場合は長時間労働になる」という法的な基準はありません。

労働基準法における労働時間のさだめとは

労働時間は労働基準法によって上限が定められています。これを法定労働時間といいます。 法定労働時間は、労使の合意に基づく所定の手続きをとらなければ延長することができません。

労働時間・休日に関する原則

時間外労働の原則と例外(特別条項)

時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、月45時間・年360時間です。
臨時的な特別の事情がない限り、これを超えることはできません。

※時間外労働と休日労働の合計について、「2ヵ月平均」「3ヵ月平均」「4ヵ月平均」「5ヵ月平均」「6ヵ月平均」が全て1ヵ月あたり80時間以内とする必要があります。

違反した場合には、罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)があります。
(出典:厚生労働省 リーフレット 2018.9)
「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」

長時間労働の基準

長時間労働についての明確な定義はありません。

しかし、「法定の時間外労働時間の上限(原則)を超えている」ことがひとつの目安になります。

長期間の過重労働について(過労死ライン)

判断基準 長時間労働の目安
36協定の基準 1ヵ月当たり45時間超の時間外労働
過労死基準(過労死ライン) 直近の1ヵ月:1ヵ月当たり100時間超の時間外労働
直近の2~6ヵ月の平均:1ヵ月当たり80時間超の時間外労働
精神障害基準 1ヵ月当たり160時間超の時間外労働

※厚生労働省の「労災認定基準」によると、月の残業が160時間、労働時間の合計が333時間前後になる場合、「精神疾患発症の可能性が高い」とされている。
(出典:厚生労働省『精神障害の労災認定』)

長時間労働と過重労働との違い

「長時間労働」と同じような意味で使われることが多い「過重労働」ですが、この二つは内容が少し異なります。

「長時間労働」は文字通り長い時間働いている状態です。

「過重労働」は極度の緊張・興奮・恐怖などによる精神的負荷や、強制的な身体的負荷といった「過重負荷」の意味合いも含まれています。

長時間労働の結果、過重労働が生じやすくなると理解すればよいでしょう。

過労死の労災認定基準の見直し
~厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書

過労死の労災認定に際しては、過労死ラインが主要な判断基準となっています。

ところが、今後は「労働時間以外の業務負荷」がより一層重視される方向で、過労死の労災認定基準が見直されることになります。

労災認定基準の見直しが検討されるに至った経緯

業務による過重負荷を原因とする脳・心臓疾患については、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」に基づき労災認定が行われてきました。

しかし、現在は働き方の多様化や職場環境の変化が生じています。

そのため、認定基準の全般について検証・検討が必要となりました。厚生労働省は2020年6月に「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」を立ち上げました。

「長期間の過重業務」の考え方

今回の認定基準見直しの一つの焦点となったのが「長期間の過重業務」の考え方です。
疲労の蓄積をもたらす「労働時間」以外の負荷要因を新たに規定しています。

① 負荷要因の捉え方

  • 休日のない連続勤務
  • 勤務間インターバルが短い業務
  • 身体的負荷を伴う業務

② いわゆる過労死ラインの考え方

  • 「発症前1ヵ月間におおむね100時間又は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との因果関係が強いと評価できる」

上記の時間外労働に関する時間数の基準(過労死ライン)については、今後も引き続き継続するとしています。

他方で、労働時間のみでは業務と発症との関連性が強いと認められる水準には達しないことがあります。しかし、これに近い時間外労働で、一定の時間外労働以外の負荷(不規則勤務など)があるときには、業務と発症の関連性が強いと評価できることを明示しています。

つまり、過労死ラインの時間数だけをクリアできていたとしても安心することはできないということです。

【参考】厚生労働省>報道・広報>報道発表資料>2021年7月
「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」
・資料1 検討会報告書の概要
・資料2 脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書

労務管理上の課題

過労死の労災認定基準の見直しについては、正式な改定はまだ先となりそうです。

しかしながら、今後の労災認定では、従業員の勤務形態や就労環境がさらに重視される方針です。
会社として、従業員各人の働き方を総合的に把握することが必要になります。

過労死ラインは、今回は現状維持となる可能性が高いものの、社会的には引き下げが求められています。
2021年5月にはWHOとILOが「週55時間以上の長時間労働で、心疾患や脳卒中のリスクが高まる」との研究結果を公表しています。

また、過労死弁護団全国連絡会議は「過労死ラインを月65時間超に引き下げるべき」との意見書を検討会に提出しています。

長時間労働の是正が課題となっている事業所においては、従業員の働き方、労働時間をいま一度確認し、必要な改善に目を向けてみてはいかがでしょうか。

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